心理学の「フロー」と過食の共通点
Share this article
止まらない過食嘔吐はときに流れ作業のようにも見えます。フローと聞いてピンとくる方は少ないかもしれません。今回は心理学のフローと過食嘔吐の関連について見てみましょう。
そもそもフローとは
心理学者のミハイ・チクセントミハイは、以下のようにフローを定期付けています。
人間がそのときしていることに、完全に浸り、精力的に集中している感覚に特徴づけられ、完全にのめり込んでいて、その過程が活発さにおいて成功しているような活動における、精神的な状態をいう。ゾーン、ピークエクスペリエンス、無我の境地、忘我状態とも呼ばれる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AD%E3%83%BC_%28%E5%BF%83%E7%90%86%E5%AD%A6%29
例えば、チェスやロッククライミングについて考えてみます。どちらも多くの技能や努力が必要ですが、その活動によって外的報酬がほとんど得られないにも関わらず多くの人がそれらに没頭します。チクセントミハイはその謎を定義づけたのです。
フローはある活動者が行為に没入しているときに感じる包括的感覚のことです。自己目的的経験は、活動者を没入させ退屈や心配から遠ざける効果があります。この状況下では、人はどんな困難な技能でもフルに働かせることができ、自分の行為から自分が定めた明確なフィードバックを得られることが特徴です。それは、現実的で予想可能な結果であるとも言えます。
フロー状態にある人は、自身の行為を客観的に見ることはできず意識と行為が一体化している状態です。外から自分の行動を良いか悪いか判断したり、意識的にその行為を省みることができません。限定された領域に意識が集中した状態、つまり没入している状態にあるのです。
また、なにかに没入するとき、その行為がある程度困難なものである必要があります。更にフローを起こす行為には明確なルールやゴールが存在します。それらが自分の中で規則的であり内部秩序がある状態になって初めて、人はフローに陥るのです。
フローと過食を考える
ここまでフローの説明を見てみると、過食がフローを起こしやすい構造であることがわかります。
大量のものを詰め込んで、それが吸収されるまでに吐き出すという行為はそう簡単ではありません。身体の構造に逆らう行為であり、心身ともに大きなダメージを受けます。
しかし、食べ方や吐き方、代償行為を駆使すると、より多くの食べ物を詰め込んで吐き出すことは可能になります。過食には技術が必要であり、当事者は日々いかにしてその行為をうまく行うかに挑戦しています。
加えて、過食は明確は目的とゴールが存在します。できる限り多くの食べ物を詰め込んで、できる限り多くの食べ物を吐き切ること、それが過食のルールです。過食中に起こるルーティンは秩序が保たれていて、まっすぐにゴールへ向かうことができます。過食はフローを引き起こす条件を全てクリアしているのです。
実際、「過食中は何も考えなくて済む」「過食を狂愛している状態になる」という当事者も多く存在します。よく、過食中は他の人格になるという当事者がいますが、実際には意識と行為が一体化してしまっている状態なのです。それほどに現実世界で退屈や不安が大きく存在することは容易に想像できます。
おわりに
今回は、ミハイ・チクセントミハイのフローと過食との関連について説明しました。心理学の概念を知ることで、過食の捉え方も変わる部分がありますよね。
そこには、フロー状態に陥らなければならなかった現実や心理状態があったのかもしれません。
過食時に起こっている状態を知ることで、当事者だけでなく周囲の方にも摂食障害の理解が進むことを願っています。
参考文献:なぜふつうに食べられないのか 磯野真穂著
Share this article