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2022年1月3日

摂食障害、治したいけど手放したくない

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摂食障害の回復期には「治したい」「だけど手放したくない」という相反する気持ちが頭の中をぐるぐるとめぐります。

苦しいのに、摂食障害が必要

「毎日死にたくなるほど苦しいのに何故かやめられない」「治したいと思うのに、手放したくないと思うときがある」と口にする当事者さんは多くいます。

それは、摂食障害があることで本当の苦しみから目をそらすことが出来ているから。摂食障害でごまかすことが出来なかったら壊れてしまっていたかもしれない心が、摂食障害という苦しい盾で自分を守ってくれている状態なのです。

ある調査で興味深いものがありました。

心理学的剖検調査で、女性自殺者の中に摂食障害の既往を持つ人が散見され、その人たちは拒食や過食嘔吐などの食行動異常は改善して症状が消失した後に、人生の荒波にもまれる中で自殺に至っていたケースだったということです。

編集後記 in 摂食障害の今日的理解と治療 II, 精神科治療学 33(12), 2018

摂食障害が治ったあとに待っているものは楽園ではありません。摂食障害という松葉杖がなくても自分の足で歩んでいかなければいけない人生です。これまで見ないフリをしてきた自分の空虚やどうにもならない現実と向き合うことが待っているのです。

摂食障害がなくても生きていけるということ

「じゃあ摂食障害が治っても苦しいの?もう人生やめたい!」そう思う人もいるかもしれません。でも、摂食障害が治ってからが、自分の人生の本当のスタートです。

・他人の目線ではなく自分の意思で物事を決める
・自分の好き嫌いは自分で感じて決める
・体重や体型じゃない自分の凸凹を抱きしめる

そんなことが、自分の人生を歩ませる一歩になるのではないでしょうか。そして、その人生は色んなルールや苦しみに縛られている摂食障害を持った今よりも、おもしろいかもしれません。

これまで以上に失敗もするかもしれません。これまで以上に人に迷惑をかけるかもしれません。でもそれが人間です。人は人と支え合って生きているんです。一人で独りにならないで。

徐々に松葉杖を手放していく

この人の前なら摂食障害を手放した状態でお話ができる。この環境なら自分の意見を言える。そんな小さなステップが、摂食障害という人生の松葉杖を少しずつ自分から離れさせてくれるのです。

摂食障害を明日、明後日に治そうとすることは、骨折した状態でギブスを取り上げてしまうことと同じです。「治したいけど手放したくない」という気持ちは異常ではありません。ごくごく自然な気持ちなのです。

少しずつ摂食障害で苦しむ当事者さんの心が解放されることを願います。

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